こんにちは、TORAIZ イングリッシュコンサルタントのAoiです!
「リスニングが苦手」「英語が聞き取れない」——そう感じている中高生はたくさんいます。教科書を使って読んだり訳したりすることには慣れていても、音としての英語にはなかなか馴染めない。そんな課題を抱える中高生にこそ有効なのが「シャドーイング」です。
この記事では、英語教員の皆さまが授業にシャドーイングを取り入れるメリットと具体的な実践方法を解説します。
なぜ、シャドーイングなのか
音声変化に気づく力が、リスニングのカギになる
英語は、書いてある通りには聞こえない——これがリスニングを難しく感じる大きな理由のひとつです。音がつながったり、弱くなって消えたりする「音声変化」は、教科書の文字だけを追っていると、なかなか気づくことができません。
シャドーイングでは、実際の音声をくり返し聞いてマネする中で、「思っていた音と違う!」という気づきが自然と生まれます。こうした気づきは、第二言語習得の研究でも重視される「気づき(noticing)」というプロセスにつながり、英語の音のルールを自分ごととして理解できるようになります。
その結果、生徒は「聞こえる音」と「頭の中の文字情報」をつなげる力を育て、リスニングへの苦手意識がぐっと減っていきます。
リスニングの“処理スピード”を鍛えるのに効果的
シャドーイングとは、耳で聞いた英語をそのまま追いかけて声に出すトレーニングです。意味理解を目的とする「精聴」とは異なり、音そのものをキャッチし、即座に「音声知覚」と「意味理解」を行い、頭の中で音声として聞いた英語を情報処理するスピードが養われます。
実際、リスニングが苦手な生徒の多くは「音は聞こえていても、文字としては認識している英語と結びつかない」「意味処理が追いつかない」と感じています。シャドーイングはその“脳の回転”を速めるのに非常に効果的です。
音から身につく「知識から使える英語へ」
聞こえてきた英語の音をそのままマネするシャドーイングをくり返すことで、文法や語順の自然なパターンが少しずつ身体にしみ込んでいきます。これは、音を通じて英語を「処理する力」を高める練習でもあります。
第二言語習得の研究では、ただ知識として覚えるだけでなく、「音としてどう聞こえるか」を正しく知覚し、それをすばやく意味理解として情報処理できる力が、実際の英語運用に大きく影響すると言われています。教科書で学んだ構文や単語も、生の音声と結びつくことで、単なる知識から「使える英語」へと変わっていくのです。
こうしたプロセスを通して、英語の理解がよりスムーズになり、会話やリスニングにも自信が持てるようになります。
授業でシャドーイングを活用する3つの方法
教科書の本文を使って行う
もっとも取り組みやすいのが、教科書本文の音声を活用する方法です。まずは生徒にとって既に内容が理解できている教材を使うことで、安心して音に集中できます。
例としては、以下のような4ステップで指導すると効果的です。
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まず音声を聴く:一度何も見ずに音声を聞き、内容と音のイメージをつかみます。
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マンブリング:スクリプトを見ずに、聞こえた音をなんとなく口に出して真似します。(声に出すハミングのようなイメージです)
- テキストチェック:スクリプトを確認し、知らない単語や表現を調べます。
- シンクロリーディング:スクリプトを見ながら、音声に合わせて同時に声に出して読みます。
- プロソディーシャドーイング:イントネーションやリズム、抑揚に注意して、話し方を真似ながらシャドーイングします。
- コンテンツシャドーイング:意味をしっかり理解しながら、感情をこめてシャドーイングします。
- なりきり音読:役になり切って音読します。なりきることで細かいニュアンスまで体得でき、スピーキングに役立ちます。
この一連の流れを、教科書本文や定期テストに出題される英文で繰り返すことで、リスニング力と文法理解の両方を伸ばすことができます。
リスニング教材に「音声変化」の視点を加える
教科書などの教材も、少しの工夫でシャドーイング向けの教材に変えることができます。例えば、以下のような音声変化ポイントに注目させましょう。
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単語と単語のリンキング(つながる音)
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子音や母音の脱落(音が消える)
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速く読まれる部分とゆっくりな部分のリズムの違い
こうした箇所にマークをつけさせたり、「なぜ聞き取れなかったのか?」という分析を促すことで、生徒が音の変化を自然に意識するようになり、リスニングへの向き合い方も変わっていきます。
「毎日ちょっとずつ」で伸びる力:シャドーイングの習慣化
シャドーイングの効果を最大限に引き出すには、「毎日少しずつ続ける」ことがカギになります。授業時間だけでなく、宿題や朝学習の時間を活用して、シャドーイングを日々の学習に組み込むことをおすすめします。
たとえば、毎朝3分間のシャドーイングに取り組むだけでも、継続することで大きな効果が期待できます。短時間でも毎日くり返すことで、英語のリズムや音のパターンが自然と耳になじみ、「音声知覚」と「意味理解」の処理スピードも徐々に高まっていきます。
また、「今日は何回練習したか」「どの部分が難しかったか」といった記録を自主学習ノートに残すことで、自分自身の変化に気づくことができます。こうした振り返りは、学習への主体性やメタ認知の力を育てるうえでも効果的です。
教師にとっても、記録を通して生徒の取り組み状況を把握しやすくなり、個別に声をかけるきっかけにもなります。少しずつでも継続することで、英語力は着実に育っていきます。
シャドーイング指導を成功させる3つのコツ
「i+1」難易度は少し簡単に
シャドーイングを導入するときに大切なのは、「少しやさしい」と感じられる素材から始めることです。たとえば、ネイティブの速い会話や知らない単語ばかりの内容では、多くの生徒が「無理そう」「聞こえない」と感じてしまい、意欲を失いかねません。
第二言語習得論では、「i+1」という考え方があります。これは、学習者の今のレベル(i)より、ほんの少しだけ難しいレベル(+1)のインプットが効果的だという理論です。つまり、「意味がある程度わかる」「少しだけ挑戦」と感じられる素材こそが、理解を助け、学びを深めてくれるのです。
「できた」「言えた」という小さな成功体験を積み重ねることで、生徒は自信を持ち、学習を継続しやすくなります。最初のハードルを下げることは、むしろ将来の大きな成長への近道です!
「知ってる!」が学びを加速する:映画やストーリーを活用しよう
シャドーイングに取り組むうえで、「知っている内容を使う」というのは、学習意欲を高めるという点で大きなメリットになります。たとえば、ディズニー映画や人気のアニメなど、生徒にとって馴染みのあるストーリーやキャラクターのセリフを活用すれば、「これ知ってる!」「聞いたことある!」という安心感が生まれ、英語へのハードルがぐっと下がります。
こうした素材は、生徒の興味を引きつけやすく、学習へのモチベーションを自然と高めてくれます。さらに、感情のこもったセリフや印象的な表現をマネすることで、リズムやイントネーションの習得にも効果的です。
意味がすでにわかっているシーンを題材にすることで、音への集中力が高まり、「音声知覚」と「意味理解」の処理がよりスムーズに行えるようになります。学習内容が「おもしろい」「もっとやりたい」と感じられることで、シャドーイングの継続にもつながります。
「自分の音」を聞くことで学びが深まる ― メタ認知を育てる工夫
シャドーイングの効果をさらに高めるには、「自分の声を録音して聞く」ことがとても効果的です。自分では「ちゃんと言えた」と思っていても、録音を聞いてみると「音が抜けていた」「リズムが違っていた」といったズレに気づけることがあります。こうした気づきは、第二言語習得で重視される「メタ認知」──つまり、自分の理解や行動を客観的にふり返る力──を育てる大切なステップです。
録音を提出させる、あるいはペアでお互いの音声を聞き合ってフィードバックを伝えるような活動も効果的です。「誰かに聞かれる」という適度な緊張感は、集中力を高め、発音やリズムへの意識も自然と強まります。
このように、自分の音を客観的にふり返る仕組みを取り入れることで、学習の質がぐっと高まります。
まとめ:「聞けた」「話せた」が、生徒の自信に変わる
シャドーイングは、ただの音読練習ではありません。「聞けるようになる」ことと「話せるようになる」ことをつなぐ、第二言語習得における重要な学習ステップです。
文字で理解するだけでなく、音をそのまま再現できるようになることで、英語のリズムや音の感覚が身体にしみ込み、発話への抵抗感がぐっと減ります。こうした音の「体感」は、生徒の英語に対する自信につながります。
「テストの点数」では得られない、「聞き取れた!」「自分の口から英語が出てきた!」というリアルな成功体験こそが、生徒のモチベーションを大きく引き上げる原動力です。
限られた授業時間の中でも、シャドーイングというシンプルで再現性の高い活動を取り入れることで、生徒一人ひとりの「できた」を育てることができます。教師の工夫次第で、教室の英語がもっと生き生きとしたものに変わっていくでしょう。
そして、まずは教師自身がシャドーイングに精通するということが大切な一歩です。ぜひ、本記事で紹介したシャドーイングの学習ステップを実践してみてください!