こんにちは、TORAIZ イングリッシュコンサルタントのYukiです!
英語学習において「リスニングが苦手」という声は非常に多く聞かれます。何度聞いても音がつかめない、会話の内容が断片的にしか理解できない、聞き流しても記憶に残らない…そんな悩みを抱えている人におすすめしたいのが「ディクテーション」です。
ディクテーションとは、英語音声を聞き取りながら、聞こえた通りに書き取る練習法。シンプルな方法ですが、実はリスニング力を大きく底上げする力を秘めています。
本記事では、ディクテーションがなぜ効果的なのか、どのように実践すれば良いのかを、具体的にご紹介します。
ディクテーションとは?
ディクテーション(dictation)とは、英語の音声を聞き、それを一語一句書き取るトレーニングです。聞いた内容を頭の中で処理し、書き出すという行為は、“聞く”・”理解する”・”書く”という3つのスキルを同時に使う非常に密度の高い学習方法です。
学校教育などでも取り入れられている方法ですが、正しいやり方で継続すれば、独学でも高い効果を得ることができます。
なぜディクテーションはリスニング力を伸ばすのか?
ディクテーションは「聞いて書くだけ」というシンプルな学習法ですが、実は英語力の根幹を鍛える要素が詰まっています。ただ聞き流すだけのリスニング練習とは異なり、一語一句を注意深く聞き取ることで、脳の処理が格段に深くなります。
では、ディクテーションがなぜリスニング力向上に直結するのか、具体的にどんな効果があるのかを4つの観点から見ていきましょう。
音の聞き取りにフォーカスできる
多くの人がリスニングでつまずく理由の一つは、「音をきちんと聞き取れていない」ことです。単語の切れ目や音のつながり(リエゾン)、弱く発音される語などが原因で、知っているはずの単語でも聞き取れなくなってしまうのです。
例)
音声:「She asked me if I could help her with the report.」
実際の聞こえ方:「She_askedme_if_I_could_helpher…」
この文では「asked me」が「アスクトミー」ではなく「アスミー」のように聞こえたり、「help her」が「ヘルプハー」ではなく「ヘルパー」のように連結されて聞こえます。
ディクテーションをすることで、「あれ、単語が1個足りない?」と違和感を感じ、音のつながりに対する感覚が養われます。ディクテーションでは、聞こえた音を細かく捉えなければならないため、普段なんとなくスルーしてしまっている部分に意識が向くようになります。自分がどの音が聞こえていないのか、どんな発音に弱いのかが明確になります。
集中力と注意力が養われる
単に聞き流すのではなく、「正確に聞き取って文字にする」という行為には、かなりの集中力が必要です。そのため、ディクテーションを通じて、耳を集中させる力、細部に注意を向ける力が鍛えられます。
たとえば、以下のような状況を考えてみてください。
英語ニュースを聞くときに、固有名詞や日付が聞き取れない → ディクテーションをしてみると「Monday the 14th」「the UN Security Council」などがごちゃごちゃに聞こえていたことに気づきます。
TOEICで選択肢の中の微妙な違いに気づけない → 「has been completed」と「had been completed」のような微細な差異が聞き取れるようになるのは、ディクテーションで細かい音の意識が習慣化されたからこそです。
会話の聞き返しが多い → 「just now」「at all」「in fact」などのつなぎ表現を飛ばして聞いていたことに気づけるようになります。
こうした細かな情報は、実際の試験や会話で非常に重要です。リスニングテストでは、設問の正解を左右する決定的な単語が一瞬だけ出てくることも多いため、聞き逃さない集中力が問われます。
また、英会話では、相手の一言を正確に聞き取れなければ適切な返答ができません。つまり、「一度で聞き取る力=集中力+注意力」は、試験でも実践でも必須のスキルなのです。ディクテーションはこの「耳のアンテナ」を研ぎ澄ますトレーニングとして、非常に効果的です。
英語の語順や構造に敏感になる
英文を聞き取って書く過程で、語順や文法構造への感度も高まります。「主語のあとには動詞が来る」「関係代名詞が始まった」など、文のパターンに自然と気づくようになります。これは、ただ音を聞くだけのリスニングでは得られにくい効果です。
たとえば、以下のような文に取り組んだとしましょう。
“The company, which was founded in 1998, has expanded globally.”
この文をディクテーションすると、まず「The company」で主語が現れ、その後に「which」で関係代名詞の節が始まる構造に気づくことになります。初めての学習者は、「which was founded」の部分で文が終わったように錯覚しがちですが、ディクテーションでは全文を書き取る必要があるため、正確な文構造に注意を払うようになります。
また、「has expanded globally」のような現在完了形+副詞の語順に触れることで、文の終わり方や意味の広がり方に対する理解も深まります。
このように、ディクテーションではリスニングしながら無意識に文法構造を捉える習慣がつくため、後のリーディングやスピーキングにも好影響を与えます。
語彙の定着にもつながる
ディクテーションを繰り返すことで、語彙の定着にも大きな効果があります。単に単語を覚えるだけではなく、「どのような文脈で使われるか」「発音とスペルはどう対応しているか」など、多角的に語彙を学ぶことができます。
下記の文を見てみましょう。
“The manager emphasized the importance of communication in the workplace.”
この文に出てくる「emphasized」や「importance」などは、TOEICや英検でも頻出の語彙ですが、音声を聞いて書き取ることで、スペル・発音・意味を一度に学ぶことができます。
最初は「emphasized」を「emphasise」や「empasized」と間違えて書いてしまうかもしれませんが、スクリプトと照らし合わせて修正することで、正しいスペルと意味が強く印象に残ります。
さらに、同じ単語に何度も出会うことで「この単語、また出てきた」という感覚が生まれ、記憶に定着しやすくなります。このプロセスは、単語帳でただ意味を覚えるよりも、実際の使用感とともに語彙が身につく点で非常に効果的です。語彙力が上がれば、リスニングの理解度も上がります。文全体の意味がよりスムーズに入ってくるようになり、結果としてリスニングの総合力向上につながります。
具体的なディクテーションのやり方
ディクテーションを効果的に行うには、段階を踏んで丁寧に進めることが大切です。いきなり全文を書き取ろうとすると挫折しやすく、逆にストレスになってしまうこともあります。大切なのは、「聞き取れなかった箇所をあぶり出し、そこを中心に鍛える」という意識で、トレーニングの精度を高めること。
以下では、初心者でも取り入れやすい5つのステップに分けた具体的な進め方をご紹介します。ご自分のペースに合わせて無理なく進めていきましょう。
短めの音声素材を選ぶ
初心者の方は、最初は10〜20秒程度の短い音声を選びましょう。下記に載せているような自己紹介、天気の説明、簡単なニュース要約などが適しています。文法や単語の難易度は中学英語レベルを目安にしましょう。慣れてきたら、30秒〜1分程度に伸ばしていきます。
例)
“Hi, my name is Yuki. I’m from Osaka, Japan. I work as a graphic designer and I enjoy hiking on weekends.”
“Today is sunny and warm, around 25 degrees. It’s a perfect day to go outside and enjoy the sunshine.”
“Japan’s bullet train system will add a new line next year. It will connect more cities and reduce travel time.”
音声を一度再生して全体を把握する
いきなり書き取りに入るのではなく、まずは音声を一度通して聞いて、どんなテーマなのか、話者のスピードやアクセントはどうかを確認します。この「全体把握」は、文章の構造を理解するうえで非常に大切です。メモを取る必要はありませんが、例えば下記の音声を聞いた際、
“Hi there! Can I help you find something?”
“Yes, I’m looking for a jacket. Something casual but warm.”
“Sure! We just got some new arrivals over here. What size do you usually wear?”
“Medium, I think. Can I try this one on?”
“Of course. The fitting rooms are right over there.”
“How did it fit?”
“It’s a bit tight around the shoulders. Do you have it in a larger size?”
“Let me check… Yes, we have it in large. Here you go.”
“Great, this one fits much better. How much is it?”
“It’s $79.99, and it’s on sale today—20% off.”
“Perfect. I’ll take it.”
“Great! I’ll ring it up for you at the register.”
「これは買い物の会話だな」などの大まかな認識があると、次のステップがスムーズになります。
フレーズごとに区切って再生し書き取る
音声を1〜2文ごとに区切って再生し、聞こえた通りに書き取ります。短く区切ることで集中力が持続し、書き取りの精度も高まります。
例)
音声全体:「I didn’t get the email you sent last night because my inbox was full.」
区切り例①:「I didn’t get the email」 → 書き取り:「I didn’t get the email」
区切り例②:「you sent last night」 → 書き取り:「you sent last night」
区切り例③:「because my inbox was full」 → 書き取り:「because my inbox was full」
聞き取れない場合は、2〜3回まで繰り返して再生して構いません。ただし、最初は「書けなかった理由」を意識することが重要です。
そのうえで、次のような対策を取ることで、苦手を着実に克服できます。
【スピードが速すぎる】→ 同じ音声を0.7~0.8倍速で再生し、耳を慣らす。速度を少しずつ戻していく。
【発音が聞き取りにくい】→ 単語単位で発音記号を確認したり、Google Assistant等で正しい発音を再確認する。
【知らない単語が出てきた】→ その単語をメモして、使われていた文脈とセットで覚える。
【リエゾン(音の連結)でつかめなかった】→ 同じパターンを含む別の例文を調べて、耳と目でなじませる。
このように「なぜ書けなかったのか→何をすれば改善できるか」を明確にすることで、1回のディクテーションが何倍もの学びになります。
スクリプトと照らし合わせて確認
すべて書き取ったら、音声のスクリプト(台本)と照らし合わせて正解をチェックします。聞き取れなかった部分や間違えたスペル、聞き間違えた単語を一つ一つ確認し、自分の弱点を洗い出します。
例)
自分の書き取り:「He has to goes to the office early tomorrow.」
正解:「He has to go to the office early tomorrow.」
→ 「goes」と書いてしまったのは、「has to」のあとに動詞の原形が来るという文法ルールを忘れていた可能性があります。自分の書き取り:「We’re gonna need more informations about the project.」
正解:「We’re gonna need more information about the project.」
→ 「informations」と複数形にしてしまったのは、「information」は不可算名詞であるという感覚がまだ身についていないためかもしれません。
こうしたミスの背後にある「文法」「音のつながり」「語彙の知識」のどれが弱点なのかを明確にすることで、次に何を重点的に復習すべきかが見えてきます。上記の場合は、「文法」が弱点だと分析することができます。
再び聞いて、正しいかたちで書き直す/音読・シャドーイングする
最後に、正しいスクリプトを見ながらもう一度音声を聞き、正しく聞き取れるようになったかを確認します。可能であれば、書き直しではなく「音読」や「シャドーイング」に切り替えることで、インプットからアウトプットへとつなげていきましょう。
音読について書いた記事はこちら↓
こんにちは、TORAIZ イングリッシュコンサルタントのYukiです! シャドーイングが英語力向上に良いということは、普段からアンテナを張られている英語学習者のみなさまは既にご存じのことかと思います。 英語学習の方法は他にもさまざまあり[…]
シャドーイングについて書いた記事はこちら↓
TORAIZ イングリッシュコンサルタントのMAIです! 突然ですが、質問です。 「英語通訳者の勉強法」と聞くと何が思い浮かびますでしょうか? 考えた際に、個別指導の英会話スクールに通う...?であったり、はた[…]
ディクテーションを継続するための3つの工夫
「ディクテーションの効果はわかっていても、なかなか続かない…」という声もよく聞かれます。ここでは、ディクテーションを習慣化するための具体的な工夫を、実際の学習者の事例を交えてご紹介します。
学習ログをつける
自分がどんな音声を使って、どこまで聞き取れたかを記録しておくと、進捗が目に見えてモチベーションが上がります。たとえば「5分のニュース音声のうち、3分までは書き取れた」「2回目のトライで正解率が80%に上がった」など、客観的なデータが積み重なると、自分の成長が実感できます。
ある会社員学習者は、毎日手帳に「教材名・トピック・書き取れなかった単語・再挑戦結果」を記録し、3ヶ月でTOEICリスニングスコアを100点アップさせました。
テーマを絞って学習する
「今日は旅行会話だけ」「今週はビジネス英語中心」など、特定のジャンルに集中することで、同じ表現や単語が繰り返し出てきます。結果的に聞き取りやすくなり、語彙定着にもつながります。
例えば、飲食業界に勤務している学習者が「レストランでの注文・接客」に関する音声ばかりを集中的に聞き取りした結果、外国人客への対応に自信が持てるようになった、という例もあります。
小さなゴールを設定する
「1日1文だけディクテーション」「毎朝10分だけやる」など、小さな目標から始めて成功体験を積むことがカギです。毎日完璧にやらなくても、「続けている」こと自体が力になります。
たとえば、大学生のAさんは「英語が苦手で三日坊主だったけど、1日たった1フレーズのディクテーションを1ヶ月続けたら、海外ドラマのセリフがところどころ聞き取れるようになった」と話しています。
まとめ
ディクテーションは、一見地味で地道な作業に見えるかもしれませんが、実は「聞く・理解する・書く」という3つのスキルを同時に鍛える、非常に効率的なトレーニングです。音の細部に意識を向け、文法や語彙の使われ方に気づき、集中力を高めながら進めていくことで、確実にリスニング力が向上します。
特別な教材やツールがなくても、自分のレベルに合った音声とノートがあれば始められるのも魅力のひとつです。今日から1日1分でも、ぜひディクテーションを取り入れてみてください。聞こえる英語が、確実に変わっていきます。
ではまた次の記事でお会いしましょう!